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夢つむぐ

カオスのなかで夢をみる花
無限にひろがる波紋
魚たちのダンス
あなただけの物語

色褪せた岸辺で水彩画を描く老人
小さな木造の家
戦争から遠くはなれて
もうずっと昔の未来で

いつか風景から数百ヘルツが失われ
山向こうの海が奈落へと消えだしたら
それに気がついたら

君は行くだけ
旅から旅へ
何度めかの夢がつむがれるまで
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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など - ジャンル : 学問・文化・芸術

曾根崎心中考

東京ノーヴイ・レパートリーシアターの第7シーズンにむかって、
だんだんと忙しくなってまいりました。

最初の企画はもう始動しています。



鎌倉で演劇を「開く」シリーズ Vol.2
第5回鎌倉演劇祭参加作品
『曾根崎心中』妙本寺公演

http://www.tokyo-novyi.com/japanese/bosyu.html

これにちなんで、ツイッター(tyler96i)でつぶやいたのを転載します。

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曾根崎心中考①永遠の愛なんて誰も信じない。もちろん、それは存在しない。だが仮に「愛」が在るとすれば、それは「永遠」に違いない、と人は信じているのである。そして、もちろん、その通りだろう。愛の永遠。

曾根崎心中考②社会生活にとって愛とは、つまり悪である。愛の本性は反社会的だからである。人々は、愛を嗅付けるや無意識に迫害してしまう。だが結局のところ、人々の歪んだ欲望は、物語のなかでその愛を見たいと願うのである。

曾根崎心中考③人を愛すると、とたんに彼は自分が弱い存在になったと気付く。変に感じやすく、涙もろくなる。愛は無力なものであり、そもそも彼自身が愛の前で無力である。愛はただ愛でしかない。愛がすべてである事の寄辺なさ。…巷では愛は強しと言うが、ここで描かれる真実は少し違う。

曾根崎心中考④愛は又、愚かなものである。それ故に、愛は子供心の領分である。「心中」という行為も、まるで何かのイタズラのように掴まれるとき(その様に表現されるとき)、この心中という行為の愚かしさが愚かしさのままに“ひっくり返る”瞬間がある。恐ろしい無邪気さのなかで…。

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ツイッターだと、言葉足らずになりがちですが、これはこれで、ここでも特に補足はしません。
ただ、一つだけ言えば、上記はあくまで東京ノーヴイの公演をみた僕の印象をもとにつぶやいています。

コミュニケーションツールとしては利用していませんが、
何かを考えるキッカケ(とりあえず言葉にしてみる)のツールとしてツイッターは手軽で良いですね。

パンドラ 4/4

 Ⅳ 九月

九月 透きとおる立方の空を戴き
人々が神なき季節にあって恩寵に浴するを見る
古代の巨人のように座する四角いビルと
手を差しのべる枝々の輝きとを俺は見る

九月 この世の投げかける美に射抜かれて
俺は昆虫のこころを持ってふたたび目覚める
この虚無のこころは欲しいままに触手をのばす
固い大地に形なすものたちに挨拶をおくる

世界は輪郭線を持たない光に繋がれた場所である
色彩の鼻唄うこの場所で
隠されていながらあらわれているものたち
そう見えるようにただ見えるものたち

九月 沈黙のなかで俺の心臓がノックする
わからない 流された血は何処にもない
俺は想い出す さまざまなものの名前を
俺は呼掛ける さまざまなものに名前を
なんのことはない 日に新たなる欲望よ

俺は手をのばし恋人の手に触れる。そっと握った手のひらが汗ばんだ。
振り向いて、まじまじと見た、ピンク。
の夕焼けのようなその頬にキスをして、その空に入る。
広大な空と大地のどこまでも彼女がいる/彼女がいない。
見よ。雲間に洩れる黄金の光。
のなかで何事かささやかれる約束。

彼女は箱を開け、一個の石をみつける。それを彼女のうちに投げ入れる。
吐息。はオペラ。陶酔と悲惨よ。
石は落ちながら、彼女の夜を、昼を、逆巻く海と荒野をぬけて落ちながら、
眩暈して、すべてを投げ棄て、その身を洗う。
ついには最後の秘密、俺たちの孤独か。なお永劫に閉じられた一個の石よ。
(降りしきる色とりどりの花々。これまでとこれから。愛の歌。の幻劇。)
石は叫んだ、彼女を、美しい人の名を、その姿をたまらなく求めて。

地平線。の彼方で鳴り響く楽の音。未聞の歌。
そこに身をもたげる大きな女がある。その息吹。
湧き上がり、立ち昇る姿の茫として、ゆれて。女よ。
いったいそれがその人であるかを石は知らない。
いったいそれが蜃気楼であるかを石は知らない。
かまわない。あるいは、すべてを石は知っていた。
(アナタノ夢ニ私ヲ連レサレ。アナタノ夢ニ私ヲ目覚メサセヨ。)
石はただ転げていた。澄みきった風が吹いていた。

九月。こうして生活がやってくる。
恋人の目の容赦のない情熱となめらかな肌の芳香とが、
俺をこの世に駆り立てる。
ああ生活。いまや変哲のない生活がやってくる。
俺は成功を追わずにはいないだろう。
美しいお前と、ほんとうの生活と、善き日々と。
さて公園には、小石を拾うまだ稚い子供ら。
輪になり踊る足どりもおぼつかぬその様を見て、俺達は、
二人は笑った。

パンドラ 3/4

 Ⅲ 幽霊ども

芝居はとうに終わっていた
私は客席にひとり残されていた
私が最後の耳であり目であった
舞台には呆けた沈黙 救えぬ闇

芝居はとうに終わっていたのだ
音楽の旋律も 役者たちの面影も
もはや想い出されない
いまや憂鬱 退屈 遣りきれない

終わった 終わった 終わっていた
寒い 狭い客席には
虚空に虚空をみつけるばかりの
私の亡骸ばかりが残されていた

ホラ見ていれば 底なしの無明が口ひらき
名もない 打ち捨てられた みじめなものら
お互いが幽霊である幽霊どもが
おいでおいでをしてるじゃないか

さては私のお仲間か てもなく愚かに眠ろうか
絶えて交感せず 孤立したものら
かつて所有されず かつて存在しないものら
無力な幽霊どもの つまらぬ芝居だ

芝居はとうに終わっていたのに
私はなおもここにいて 虚空に
ああ 何も見はしなかったしなかった
私はおもむろ席を立つ 拍手はしない

パンドラ 2/4

 Ⅱ 池

あるとき俺は池だった
深くて 冷えた池だった
そのなかで宝石が眼を開く
――彼女は殺されて帰ってくる
――俺にはそれが解っている

俺は瞼を開けている
そこにお前は飛び込める
そこには闇があるだろう
――不可思議な気持ちを溶かすがいい
――誰が誰か知らないでいい

奇異なる魚が群れなし泳ぐ
お前のまわりを親しくめぐる
お前をつつき こう告げる
――ヨク来タネ ヨク来タネ ヨク来タネ
――ケレド 死ンダモノ ハ 早ク 去レ

池は静かに蒸発した
池は 沸騰する涙であった
そのなかで宝石が眼を閉じた