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パンドラ 4/4

 Ⅳ 九月

九月 透きとおる立方の空を戴き
人々が神なき季節にあって恩寵に浴するを見る
古代の巨人のように座する四角いビルと
手を差しのべる枝々の輝きとを俺は見る

九月 この世の投げかける美に射抜かれて
俺は昆虫のこころを持ってふたたび目覚める
この虚無のこころは欲しいままに触手をのばす
固い大地に形なすものたちに挨拶をおくる

世界は輪郭線を持たない光に繋がれた場所である
色彩の鼻唄うこの場所で
隠されていながらあらわれているものたち
そう見えるようにただ見えるものたち

九月 沈黙のなかで俺の心臓がノックする
わからない 流された血は何処にもない
俺は想い出す さまざまなものの名前を
俺は呼掛ける さまざまなものに名前を
なんのことはない 日に新たなる欲望よ

俺は手をのばし恋人の手に触れる。そっと握った手のひらが汗ばんだ。
振り向いて、まじまじと見た、ピンク。
の夕焼けのようなその頬にキスをして、その空に入る。
広大な空と大地のどこまでも彼女がいる/彼女がいない。
見よ。雲間に洩れる黄金の光。
のなかで何事かささやかれる約束。

彼女は箱を開け、一個の石をみつける。それを彼女のうちに投げ入れる。
吐息。はオペラ。陶酔と悲惨よ。
石は落ちながら、彼女の夜を、昼を、逆巻く海と荒野をぬけて落ちながら、
眩暈して、すべてを投げ棄て、その身を洗う。
ついには最後の秘密、俺たちの孤独か。なお永劫に閉じられた一個の石よ。
(降りしきる色とりどりの花々。これまでとこれから。愛の歌。の幻劇。)
石は叫んだ、彼女を、美しい人の名を、その姿をたまらなく求めて。

地平線。の彼方で鳴り響く楽の音。未聞の歌。
そこに身をもたげる大きな女がある。その息吹。
湧き上がり、立ち昇る姿の茫として、ゆれて。女よ。
いったいそれがその人であるかを石は知らない。
いったいそれが蜃気楼であるかを石は知らない。
かまわない。あるいは、すべてを石は知っていた。
(アナタノ夢ニ私ヲ連レサレ。アナタノ夢ニ私ヲ目覚メサセヨ。)
石はただ転げていた。澄みきった風が吹いていた。

九月。こうして生活がやってくる。
恋人の目の容赦のない情熱となめらかな肌の芳香とが、
俺をこの世に駆り立てる。
ああ生活。いまや変哲のない生活がやってくる。
俺は成功を追わずにはいないだろう。
美しいお前と、ほんとうの生活と、善き日々と。
さて公園には、小石を拾うまだ稚い子供ら。
輪になり踊る足どりもおぼつかぬその様を見て、俺達は、
二人は笑った。
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